扉の向こうはいつも雨
「情けないなぁ。」

 ベッドに横になる宗一郎はふてくされた顔をして呟いた。
 子どもっぽい仕草に思わず笑みをこぼす。

「そんなことないですって。」

「笑ってるくせに。」

 クスクス笑う桃香に宗一郎はますますふてくされた顔をした。

「男として不甲斐ない」そうやって呟く宗一郎を抱きしめたい衝動に駆られる。

「はいはい。
 そういうのは後でやってくれ。」

 呆れ顔なのは塚田だ。
 今にも抱きつきそうな桃香の気持ちを察したような発言に、桃香も塚田がいたことを思い出し抱きつくことはしなかった。

 ここは宗一郎のマンション。
 帰ってきたのだ。

 緊張の糸が切れたのか、宗一郎はあの場で体調を崩して桃香が支えながらなんとか帰ってきた。

 そこから塚田を呼んで今に至る。

 体調が悪くなってから片時も離れずにいても何も言われなかった。
 もちろん部屋で寝ている傍らで看病していても。

「で?晴れて解放されたんだ。
 こっからが大変だぞ。
 宗一郎も復職するんだろ?」

「あぁ。まぁそうかな。」

 塚田と話す宗一郎は少しくだけていて、そんなことに気づける今に幸せを感じた。

「あんたもこっからだぞ。
 親を納得させて他にも色々とやることありそうだ。」

「……はい。頑張ります。」

 現実はまだまだ問題山積で。
 けれど今はまだ、このままでいたい。
 もう少し。もう少しだけ。

「ま、俺は馬に蹴られたくないから帰るわ。」

「あぁ。とっとと帰れと思ってた。」

 宗一郎と塚田はお互いに憎まれ口を叩いてそれから笑い合った。








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