扉の向こうはいつも雨
 塚田が帰ると2人きり。
 かけがえのない穏やかで柔らかな居場所。

「桃ちゃん。」

 ベッドから体を起こした宗一郎は神妙な顔つきで言葉を重ねた。

「桃ちゃんは僕と一緒に居てもいいと思ってくれてるんだよね?」

「もちろんです。」

 そうずっと言っているのに。
 けれど神の子と生け贄の関係が本当に解消されたからこそ確認したいのは自分も同じだった。

「迷惑かけるよ?
 ちょっとしたことで体調を崩すのはきっと変わらない。」

 未だ情けない気持ちが拭えない宗一郎が何故だか愛おしい。

「私こそ。迷惑かけっぱなしです。
 お料理!覚えます!」

「ハハハッ。そうだった。そうだね。」

 そこから俯いて黙ってしまった宗一郎は何か考えているのか、言葉を選んでいるのか。

 俯いてサラサラとこぼれた髪が光を浴びて輝いている。

 しばらくの沈黙を経て、宗一郎が口を開いた。

「いつか……儀式の……その、お味見じゃなくて愛しい人との口づけを交わしたいな。」

 宗一郎は俯いていた顔を上げ、こちらを見つめた。
 見据えられた瞳は透き通るような澄んだブルーと何もかもを射抜く曇りのない薄いブラウン。

 美しく儚い瞬き。

「あの……。
 宗一郎さんに見つめられると動けなくなるのは、やっぱり神の子だからですか?」

 桃香の発言に目を見開いた宗一郎が手を顔に当てて再び俯いた。

 またやってしまった。
 神の子、なんて居なくて宗一郎さんはそう言われることを嫌がっているのに……。







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