きみが赤を手離すとき。
宝石みたいな赤
「これがルビーだったら、いくらだと思います?」
私は人差し指と親指で掴んでいる赤色のものを、太陽の光りに透かす。まるで宝石のような透明感があるけど、感触は柔らかい。
「広瀬(ひろせ)らしい発想だな。トマトがルビーだなんてさ」
クスリと笑う水島(みずしま)先輩は私よりひとつ上の三年生。
穏やかな雰囲気と甘いルックスでファンも多い。そんな女子たちの標的にならないように、こうして先輩と昼休みを過ごすことになってから約1か月が過ぎていた。
先輩の手にはお弁当。しかも中身は彩り豊かなおかずが詰められていて、美術部としては嫉妬するぐらいの色彩能力の高さだ。
「美術室で弁当食べてること意外にバレないもんだね」と、先輩がアスパラガスの肉巻きを口に入れる。
美味しそうな手作り弁当とは違い、私は色気のないコンビニのメロンパンが今日の昼食だ。
「まあ、例えバレても私が部長なんで黙らせますよ」
「そんな権限あるの?じゃんけんで負けて部長になっただけなのに」
「う……」
美術部は部員が少なくて、三年生はコンクールを最後に引退してしまったし、二年生は私を含めて四人しかいない。
押し付け合いは見苦しいと、じゃんけんを提案したのは私。そして、まさかの一発で負けるとは思ってなかった。
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