きみが赤を手離すとき。
*
「昨日はごめん」
次の日の昼休み。先輩は美術室にきた。
「はは、先輩が私に謝る必要なんてないですよ」
大丈夫。笑えてる。いつもどおりの私だ。大丈夫。
「風邪、長引かなかったんだ」
でも、先輩の柔らかい笑顔は見れない。
「はい。先輩の差し入れのおかげですよ。あ、これお礼です」
「チョコ?」
「コンビニので、すいません」
「いや、俺チョコ好きだし。ありがとう」
他愛ないいつもの会話。いつもの昼休み。なのに、私の気持ちはずっとフワフワしちゃってる。
「でも早く治って本当によかった」と、先輩の手が私へと伸びてきた。
たまに頭を撫でてくれる先輩。後輩を可愛がるように髪の毛をくしゃってする。
それは、ご褒美だって思ってた。
顔がニヤケそうになるのをいつも我慢していた。でも、今日の私は思わずパシッと先輩の手をはらってしまった。
……あれ。
いつもどおりの仲がいい後輩を頑張って演じようとしてたのに、おかしい。