きみが赤を手離すとき。





「昨日はごめん」


次の日の昼休み。先輩は美術室にきた。


「はは、先輩が私に謝る必要なんてないですよ」

大丈夫。笑えてる。いつもどおりの私だ。大丈夫。


「風邪、長引かなかったんだ」

でも、先輩の柔らかい笑顔は見れない。


「はい。先輩の差し入れのおかげですよ。あ、これお礼です」

「チョコ?」

「コンビニので、すいません」

「いや、俺チョコ好きだし。ありがとう」

他愛ないいつもの会話。いつもの昼休み。なのに、私の気持ちはずっとフワフワしちゃってる。

「でも早く治って本当によかった」と、先輩の手が私へと伸びてきた。


たまに頭を撫でてくれる先輩。後輩を可愛がるように髪の毛をくしゃってする。

それは、ご褒美だって思ってた。

顔がニヤケそうになるのをいつも我慢していた。でも、今日の私は思わずパシッと先輩の手をはらってしまった。

……あれ。

いつもどおりの仲がいい後輩を頑張って演じようとしてたのに、おかしい。

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