きみが赤を手離すとき。



それから二週間が過ぎた。先輩とは会ってない。


思えば校舎で会うことなんて、滅多になかったし、このまま顔を見なければ、いつか先輩への気持ちも消えてくれるのかな。


昼休み。職員室に寄った帰りに私は美術室の前で止まる。部活ではいつも使ってるけど、昼休みは先輩との思い出が濃すぎて、近寄れなかった。

ガラッと開けると、絵の具の匂い。


先輩と一緒にお昼ご飯を食べていた窓際の席に座り、ため息をつく。

二週間も過ぎたっていうのに、隣を見れば先輩がいるような気がする。


会わなければ想いは消える?

誰だ、そんなこと言ったのは。

想いなんて、募るばかりだよ。


「広瀬」

ビクッとして振り向くと、そこには先輩がいた。


「な、なんで……」

「ずっと待ってた。広瀬がこの時間に来てくれるの」


ドクン、ドクンと鼓動がうるさい。先輩の顔を見ただけで胸が熱くなる。

ダメだ。これ以上先輩を好きになったら戻れなくなる。


「えー、もしかしてトマト食べてくれる人見つからなかったんですか?」

あえて明るく振る舞った。


「私もうイヤですよ。けっこうムリして食べてたし、困ってるなら正直に彼女さんに言うしかない――」


その瞬間、ふわりと先輩の匂い。

先輩がきつく私を抱きしめるから、その甘い匂いでクラクラする。

< 14 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop