きみが赤を手離すとき。
それから二週間が過ぎた。先輩とは会ってない。
思えば校舎で会うことなんて、滅多になかったし、このまま顔を見なければ、いつか先輩への気持ちも消えてくれるのかな。
昼休み。職員室に寄った帰りに私は美術室の前で止まる。部活ではいつも使ってるけど、昼休みは先輩との思い出が濃すぎて、近寄れなかった。
ガラッと開けると、絵の具の匂い。
先輩と一緒にお昼ご飯を食べていた窓際の席に座り、ため息をつく。
二週間も過ぎたっていうのに、隣を見れば先輩がいるような気がする。
会わなければ想いは消える?
誰だ、そんなこと言ったのは。
想いなんて、募るばかりだよ。
「広瀬」
ビクッとして振り向くと、そこには先輩がいた。
「な、なんで……」
「ずっと待ってた。広瀬がこの時間に来てくれるの」
ドクン、ドクンと鼓動がうるさい。先輩の顔を見ただけで胸が熱くなる。
ダメだ。これ以上先輩を好きになったら戻れなくなる。
「えー、もしかしてトマト食べてくれる人見つからなかったんですか?」
あえて明るく振る舞った。
「私もうイヤですよ。けっこうムリして食べてたし、困ってるなら正直に彼女さんに言うしかない――」
その瞬間、ふわりと先輩の匂い。
先輩がきつく私を抱きしめるから、その甘い匂いでクラクラする。