きみが赤を手離すとき。
「……な、なにしてるんですか?」
慌てて引き離そうとしてもビクともしない。
なんでこんなことするの?せっかく離れたのに。苦しすぎるから、終わりにしたかったのに、なんで……。
「彼女とは別れた」
……え?き、聞き間違いだろうか。
動揺する私の身体をゆっくりと離して、先輩がまっすぐに私を見つめる。
「広瀬が風邪で休んだ次の日に、俺から言った」
「なんで……」
「広瀬のことが好きだから」
息を吸うのも忘れていた。そのぐらい身体に力が入らない。
「ずっと広瀬のことばっかり考えてた。情けなくて最低だけど、弁当を理由にして、広瀬に会いたかったのは俺のほうだ」
先輩は私を再び強く抱きしめる。
「せ、先輩、痛いです」
「うん。でもごめん。離したくない」
じわりと実感してくる先輩の体温。ずっと触ってみたかった先輩は私が想像していたものより、熱くて優しくて、力強かった。
「……私、トマトが嫌いなのは、本当ですよ。トマトジュースだって、どれだけムリして飲んだと思ってるんですか?」
言いながら、涙で声が詰まる。
「ごめん」
「でも、でも……っ。トマトは嫌いでも、先輩のことは死ぬほど好きです」
そう告げると、先輩は「俺も」とくしゃりと笑う。
先輩と私を繋いでいたルビーの宝石はなくなった。
でも、今日から、この瞬間から……。
私と先輩は、新しい関係で繋がっていく。
【きみが赤を手離すとき。 END】