きみが赤を手離すとき。



「で、でも私が部長になったから鍵も使えて、こうして昼休みに使えてるんですよ?」

まあ、人目につかないところとはいえ、絵の具の匂いが濃い美術室でご飯を食べるのは不向きだと最近ようやく気づいてきたけど。


「助かるよ。毎日トマト食べてもらって」

先輩はそう言って、「はい」とお弁当箱から二つ目のミニトマトを私に差し出す。赤の消えたお弁当はなんだか緑色ばかりで、一気に彩りに華やかさがない。


「〝彼女〟にはっきり言ったらどうですか?トマトは大の苦手だって」

「うーん。でも言いづらくてさ」

「もう、仕方ないですね」

先輩の栄養バランスを考えて毎朝ミニトマトを詰めている彼女のことを考えながら、私はぱくりとトマトを食べた。


先輩に同級生の彼女ができて、もうすぐ2か月。

先輩がデッサンのモデルを引き受けてくれたところから交流がはじまり、普通の後輩よりは親しい関係になって1年。つまり、彼女よりも私のほうが先輩との付き合いは長い。

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