強引上司に捕まりました
器用に受話器を耳に挟んで誰かと電話しながら、部下に指示を飛ばしている。
相変わらずきっちりしていて隙がない。
その彼が私の婚約者だなんて、実感が湧かないというか、夢だったんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
この1週間、特に電話もメールもなかった。
課長が多忙なことを考えれば、仕方がないことなのかもしれないけれど。
いつ連絡がくるのかと、スマホを握り締めて待っていた私。
かといって自ら連絡する勇気もなくて。
こういう時、恋愛経験の低さが恨めしく思える。
気を取り直してパソコンに向かい合うと、突然名前を呼ばれて課長のデスクに向かった。
「緒川、これ片付けといて」
「はい」
手渡されたファイルは会議で使ったもので、資料室に返却しなければならない。
私は受け取ると自分のデスクに戻った。