お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
狭い箱の中では、逃げようがないと思ってのことだろう。


このチャンスを待っていた私は、草履の爪先をサッと前に出して扉が閉まるのを防ぐ。

私の足を挟んだ扉はガコンと音を立てた直後、即座に開き、エレベーター内から廊下に飛び出した私は着物の裾を捲し上げて、全力で駆け出した。


「莉子、待ちなさい!」と慌てる両親の叫びが後ろに聞こえるけれど、捕まってなるものかと必死の私は、エレベーターホールの横にある階段を駆け下りる。

振袖に草履は走りにくいが、着物なのは母も同じで、父は太っているため足は遅い。

こうなれば、若くて体力もある私が断然有利だ。


一階ロビーのフロント前まで戻ってきた時には、両親との距離をかなり離したようで声は聞こえず、気を抜きかけた。

シックで豪華なソファセットと観葉植物の鉢植えの向こうに玄関が見えて、脱出成功まであと少しである。


やったね。

ドタキャンすれば、両親のメンツは丸潰れだろうけど、何度言っても私の意見を聞いてくれなかったのだから、今回は強硬手段に出させてもらう。

これで、もう見合い話は持ってこないだろうし、やれやれだ。
< 5 / 255 >

この作品をシェア

pagetop