お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
見たところ彼は、三十歳前後だろうか。

高級そうなスーツを綺麗に着こなして、ナチュラルさを残しつつも清潔に整えられたダークブラウンの髪型が素敵だ。

肌色は健康的で、切れ長二重の涼やかな目元に筋の通った鼻梁。

適度な厚みを持つ唇は大人の色気があり、メンズファッション紙の表紙を飾りそうな見目好い男性である。


身なりを完璧に整えて、この一流ホテルにやってきたということは、これから友人の結婚式にでも参列するのだろうか。

それともホテル内のレストランで、恋人か誰かと落ち合い、食事を予定しているのかもしれない。


彼が睨んでくる理由は、『忙しいのに、そんなことに俺を巻き込むな』と言いたいためだと推測した私は、機嫌を直してもらおうと、「お詫びとお礼にこれを……」と帯の隙間に指先を差し入れた。

そこから取り出したのは、個包装された飴玉ひとつ。


家業を継ぐ気のない私は、大手製菓会社の東京本社で営業事務をしていて、この飴は今年の秋に発売予定の新商品、『焼き芋キャンディ』だ。

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