無敵の剣
伊東さんがお湯で顔を洗う


「弟と僕の初恋の相手がね
城に出入りしていて
徳川の役人に殺されたんだよ
僕は、結婚し道場の婿養子になった
でもね… 弟は、まだ癒えてないんだ
あの時の心の傷がね
僕だって忘れていない…」



私は、伊東さんの話を黙って聞く



「幼なじみで、ずっと一緒に育ったから
家族と言ってもいい存在だ
徳川を許せなかった
何度か襲撃したよ
藤堂君と出会ったのは、そんな時でね
彼は、廊にいたんだ
幸姫を暗殺しようとした罪でね
使えると思ったよ
僕は、藤堂君に…」


「その先は、知っています」



伊東さんの話を遮った



「伊東さん… 
私は、家茂様がこの世を去るまでは
お仕えしようと新選組に入り
同時に、人探しをしていました
ひとりは、幸を京に逃がしくれた平助
もうひとりは、いえ、ふたりいましたが
幸の身代わりに亡くなった方の初恋の人
伊東さん達、兄弟です」



伊東さんは、目を大きく見開いた



「幸は、雪さんの命を奪ったことを
本当に… 申し訳なかったと…
雪さん、幼なじみが
『大切な人は、命懸けで守るんだ』と
言っていたから自分も頑張りたかったって
初恋の人に、生きてもう一度会えたら
誉めて貰うんだって…」




伊東さんの目から
ポロリと涙が落ちる



「私と暮らしている時、幸は、雪と名乗っていました
私には、幸より雪の方が馴染み深い
雪が、いつも笑っていたのは
本当の雪さんがいつも笑っていたからじゃないかな…
私が、幸でいる時
女らしく出来たように…」





「…ありがとう
まさか… こんな話が聞けるなんてね…
斎藤君… とりあえず身体は隠しなさい」



/////////// 慌てて手拭いで隠す

折角の手拭いもほったらかして
夢中で話をしてしまった




「ありがとう」




伊東さんが、笑った




「こちらこそ…
ありがとうございます」











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