イジワル上司にまるごと愛されてます
「私は気にしていたんだぞ~。当初の予定の半分の四年で帰ってきたんだからな」
「いや、それは」
「で、どうにかなったのか?」
「そればっかりはどうにも」

 柊哉は慌てたように言った。思わせぶりな部長の言い方に来海は興味を引かれたが、二人をあからさまに見ることははばかられた。けれど、だし巻き卵を食べながらつい耳だけは二人の方に向けてしまう。

「えっ、どうにもなっとらんのか? それはまたどうして」

 興味津々といった様子の部長に、柊哉は咳払いをした。

「部長、その話は今は……」

 柊哉は話を終わらせたいようだが、そうはさせじと敦子が言葉を挟む。

「いったいなんのお話なんですか? 気になります。ぜひ教えてください」

 部長は日本酒をゴクリと飲んで意味ありげに笑った。もう酔いが回ってきているようで、頬骨の辺りが赤らんでいる。

「それが、雪谷課長はな、好きな女性を残して――」
「部長!」

 柊哉が部長の言葉を遮った。彼は一瞬気まずそうな表情をしたが、それをごまかすように顔をしかめた。
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