イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海はスクランブルエッグを口に運んだ。

 柊哉がロンドンに発ってから、彼のことを忘れようとメッセージを一切送らなかった。けれど、尚人や雄一朗が、ときどき柊哉のことを話題にしたのだ。

『支社の設立書類を出しに行って、すごく待たされたらしいぞ』
『現地の事務員を雇うときに、柊哉も面接したんだって』
『営業がんばってるらしいよ』

(あんなふうにされたら、柊哉のこと、忘れたくても忘れられないよね……)

 来海はクスッと笑みをこぼした。柊哉が怪訝そうに問う。

「なに考えてるの?」
「んー、なんでもない」

 だが、来海が相変わらず口元を緩めているので、柊哉はおもしろくなさそうな表情になる。

「誰のことを考えてるんだ?」

 彼の拗ねたような表情が愛おしくて、来海はわざと正直に答える。

「尚人と雄一朗」
「なんで今、あいつらのことを考えるんだよ」

 柊哉がますます不機嫌そうになり、来海は声を出して笑った。

「どうして笑ってる?」

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