イジワル上司にまるごと愛されてます
『緊張して朝ご飯が食べられなくてっ』

 来海は真っ赤になって言い訳をした。彼はビジネスバッグのポケットから一口サイズの栄養補助クッキーを取り出し、『就職試験あるあるだよな。腹が減って実力が出せなかったら悔しいし、よかったらこれ食べて』と渡してくれたのだ。

 彼は来海をチラッと見て、外国人のカップルに来海が言いたかったことをすべて英語で伝えてくれた。カップルはホッとしたように破顔し、「Thank you.」と言って列の最後に並んだ。

「はー……。ありがとう、助かりました」

 来海は胸に手を当てて大きく息を吐き出した。

「えっと……どこかで会ったことある、よね?」

 彼が来海に向き直って言った。

「あ、はい! 七瀬来海と言いますっ。フィーカの面接試験で一緒になりました。その節はお世話になりました!」
「ああ、あの“就職試験あるある”の子だな」

 そう言われて、来海の顔がそのときと同じくらい赤くなった。面接試験の待合室で大きなお腹の音を鳴らしたのだから、印象に残って当然だ。
< 137 / 175 >

この作品をシェア

pagetop