イジワル上司にまるごと愛されてます
「でも、私……たどたどしい変な英語だったし、結局さっきの二人の役に立てなかったし……」

 肩を落とす来海に柊哉は優しい声をかける。

「そんなことない。こんな状況で心細いときに七瀬さんが声をかけてあげて、あの二人はきっと不安が和らいだはずだよ」
「そ、そうかな」
「そうだよ。それに、なにもしなければなにも変わらないしね。さっき出した勇気は七瀬さんにとってプラスになるはずだ」

 にっこり笑う彼の笑顔がとてもまぶしくて、来海は目を細めた。そのときアナウンスが流れて、駅員がマイクで列車が到着したことを伝える。

「あ、電車来たね。乗れるかなぁ。ってか、乗らないと遅刻だな」

 柊哉がつぶやき、二人して後ろの人に押されるようにしながら電車に乗り込んだ。超満員となったその車両は蒸し暑く、来海はドア横で体を小さくした。柊哉はその前に立って、体を支えるように右腕を伸ばして来海の顔の横に突く。

 電車が揺れるたびに、少し上にある彼の顔がわずかに歪んだ。誰かの鞄が当たったのか、「ってぇ」と小さく声を発したときもあった。けれど、来海は自分と柊哉の間にほんの少し空間が空いていることに気づいた。
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