イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海は唇を引き結んだ。茉那にはどんな言葉で柊哉に振られたのか、詳しく話していなかったし、今でも話したくない。

「彼が仲良くしてくれてたのは、私を友達だと思ってたからだよ。女扱いしてなかったの。それに、私、柊哉のことはもうとっくに吹っ切ってる」
「ホントに?」

 茉那に探るように言われ、来海は強い口調で答える。

「うん、柊哉なんかもうぜんぜん好きじゃないから」
「そっか。何度も訊いてごめん。雪谷くんがいなくなってから、すごく無理してる来海を見てたから……」

 茉那はすまなさそうに言った。その直後、驚いたように大きく目を見開く。

「どうしたの?」

 来海は不思議に思って茉那の視線の先を追い、ハッと息をのんだ。柊哉と同期の筧(かけい)尚人(なおと)、古川(ふるかわ)雄一朗(ゆういちろう)の三人が、店員に案内されて隣のテーブル席に着いたところだったのだ。

(さっきの話、聞かれてないよね……?)

 来海が柊哉を好きだったこと、そして彼に振られたことは、やっぱりほかの同期には知られたくない。
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