イジワル上司にまるごと愛されてます
「もたれるなら俺にしろ。窓ガラスだと車の振動が伝わってしんどくなる」

 柊哉は来海の肩に手を回し、ぐいっと引き寄せた。来海の肩が彼の肩に触れ、その頼りなさに心配になる。

「ありがとう」
「飲み過ぎる前に止めなきゃいけなかったな」

 柊哉はぼそりと言った。

「私が飲みたかったの」

 タクシーがゆっくりと走り出した。今隣で感じる彼女の温もりに、痛いほど胸が締めつけられる。

(そばにいるのが当たり前だと思ってたのにな)

 もう当たり前ではなくなってしまうのだ、と思うと、少しでも長く彼女と一緒にいたい。

 そのとき、柊哉にもたれたままの来海が、右手で彼のスーツの袖を掴んだ。

「部屋まで……送ってほしい……な」

 そのか細い声にドキリとする。

「最初からそのつもりだったよ。心配だから、ね」

 柊哉は低い声で答えた。

 やがてタクシーは来海のマンションの前に到着した。来海がバッグを開けている横で、柊哉は財布からクレジットカードを抜き出した。来海が怪訝そうに彼を見る。部屋まで彼女を送ったら、戻ってきてまたタクシーに乗ると思っていたらしい
< 151 / 175 >

この作品をシェア

pagetop