イジワル上司にまるごと愛されてます
 柊哉は理性を奮い立たせた。

「どうして? 理由を教えてよ」

 言葉を紡いだ来海の唇は、キスのせいでふっくらと赤みを帯びていた。あまりにも魅惑的なその唇から、すぐに視線を逸らす。

「ダメなものはダメなんだ」
「私が初めてだから……? だから、ダメなの?」

 柊哉は大きく息を吸い込み、彼女を突き放せるような厳しい言葉を選ぶ。

「ああ、そうだよ。俺ならもう会えなくなるし、後腐れなく処女を捨てるのにちょうどいい相手だと思ってたんだろ?」
「まさか! そんなこと思ってない! 私、柊哉のことが」
「それ以上言うな」

 それ以上聞いてしまえば、絶対に来海を離せなくなる。

 彼はふいっと顔を背け、自分に言い聞かせるように言う。

「来海は……ただの友達だ。女とは思えない」
「そんな……じゃあ、これまでのことはいったいなんだったの?」
「酔ってたんだ!」
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