イジワル上司にまるごと愛されてます
 柊哉は瑚子の言葉を遮る。

「肝試しじゃなくて、キミに興味ないって言ったんだ」

 柊哉に不機嫌そうに言われて、瑚子は目を見開いた。

「な……」

 拒否されることに慣れていないのだろう、金魚みたいに口をパクパクさせている。赤い口紅が本当に金魚みたいだ、と思いながら、柊哉は立ち上がった。そのとき、テラスの逆側から男子社員の声がする。

「おーい、女子が一人足りないぞ~」
「ほら、呼ばれてるぞ」

 柊哉が視線でそちらを示し、瑚子は怒りで頬を赤らめながら立ち上がった。

「か、勘違いしないでよねっ。私だって雪谷くんなんかに興味ないし。あなたが一人で座ってるから、かわいそうに思って誘いに来てあげただけなんだからっ!」

 瑚子はそう言い捨て、肩を怒らせながらテラスの逆側へと歩いていった。

 このままここにいては肝試しに無理矢理参加させられるかもしれない。

 それは面倒なので、柊哉はチェアから立ち上がった。テラスから下りて、さっきまでバーベキューを楽しんだテーブルと椅子が並ぶ広場を通る。松の木立を抜けて浜辺に行こうとしたとき、誰もいないはずの洗い場の方から、食器の触れ合うカチャカチャという音が聞こえてきた。
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