イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海は照れくさそうに笑って、また皿を洗い始める。

「私、ほとんど料理を手伝ってないから」

 だが、料理をする女性たちの間に入れなかったのであろうことは容易に想像がついた。

 柊哉はクスリと笑って問う。

「肝試しは? 行かないの?」
「あー……」

 来海は曖昧な声を出しながら、今度は焦げ付いた焼き肉用の網をタワシでごしごしとこすり始めた。

「別にいい」
「どうして?」
「いいからいいの」

 来海はそれだけ言って一心に網をこすっている。けれど、その頬がわずかに染まっているのに気づいて、柊哉は追求してみたくなった。

「なんでいいの? 理由を教えて」

 柊哉は来海の顔を覗き込んだ。来海はチラッと彼を見て答える。

「……苦手、なんだ」
「なにが?」
「お化け、とか」

 来海の顔が真っ赤になった。
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