イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海は目を見開いて柊哉を見た。瞳に一抹の不安が滲んでいる。その表情を見て、柊哉は口元が緩むのを感じた。

「だろ?」
「や、それとこれとは違うと思う」
「違わないって。それに怖いことなんてないんだって俺が証明してやるよ」

 柊哉はタワシを握っている来海の手首を掴んだ。

「やだ、待って! 私、肝試しはホントにいいから!」
「ダメだ」
「やだやだやだ」

 来海は手首を握る彼の手から逃れるように手をぶんぶんと振り回した。本気で怖がっているその仕草と顔がなんともかわいくて……もっと見てみたい、なんて思ってしまう。

「やだじゃない」
「そ、そそ、それに私、洗い物があるから」

 あまりの動揺ぶりに、柊哉はつい笑みをこぼした。

「そんなのは終わったら俺が手伝ってやる」

 柊哉は、足を踏ん張る来海の手からタワシを取って洗い場にポイと投げた。

「あーっ」

 情けない声を上げる彼女を無理矢理引っ張って、松の木の間を抜ける。ほかのメンバーは川辺を遡るつもりらしいが、柊哉は先に海に行こうと思った。
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