イジワル上司にまるごと愛されてます
「ど、どこ行くの?」

 うっそうとした松の木立を歩きながら、来海が不安そうな声を出した。風が枝を揺する微かな音にもビクビクして、今にも足を止めそうで、柊哉は力を入れて彼女の腕を引っ張る。

「海だよ」
「え、なんで海?」
「なんとなく」
「なにそれ。じゃあ、ほかのところにしようよ! 夜の海って真っ暗だし、ちょっと……」
「ちょっと、なに?」

 柊哉が足を止めて来海を見た。来海が怖がっている様子を彼が楽しんでいるのに気づき、来海は唇を尖らせる。

「雪谷くんって意地悪だ」
「かもね。七瀬さんをここに独りぼっちで残していくってこともできちゃうかもしれないしね」

 柊哉がいたずらっぽく笑い、来海は眉を下げた情けない顔になる。

 柊哉はわざと目を見開き、空いている手で来海の後ろを指差した。

「うわあぁっ!」

 柊哉が声を上げ、来海はビクッと体を震わせたかと思うと、彼の背後に逃げ込んだ。

「いやー、きゃー、なにー!?」
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