イジワル上司にまるごと愛されてます
「なにが『うわあぁっ!』よ。わざと怖がらせるようなことを言うなんて、雪谷くんってホンットーに意地悪なんだねっ」
「悪い。でも、暗くても怖くはないだろ?」

 言いながら柊哉は右手を差し出した。その手を見て、来海はきょとんとする。

「なに?」
「俺のことは柊哉でいいよ。同期で同じ部署だし」

 来海は柊哉の手と顔を交互に見ていたが、やがておずおずと右手を差し出した。

「じゃあ……私は来海でいいよ」

 来海の細い手を、柊哉はキュッと握って離した。

「よし。じゃあ、肝試しにも行けるな」
「えっ、それは無理っ」

 来海が全力で首を左右に振った。そのまま逃走してしまいそうなので、柊哉は彼女の手を掴んで歩き出す。

「大丈夫だって」
「大丈夫じゃないっ。あ、そうだ洗い物~」

 砂浜で足を突っ張らせる彼女を、柊哉はグイグイと引っ張っていく。

「あとで手伝ってやるって」
「あとっていつよ? 今でしょ?」
「さぁね~」

 柊哉は久しぶりに感じたくすぐったい想いに胸を弾ませながら、川へと来海を引っ張っていくのだった。 
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