イジワル上司にまるごと愛されてます
 敦子の甘えたような声を聞いて、美由香が来海の耳にこっそりささやく。

「木下主任、媚び媚びですね」

 来海は苦笑をこぼし、カシスオレンジのグラスを空にした。空腹で飲んだので、アルコールの回りが早い。けれど、酔ってしまえば柊哉への気持ちも敦子へのヤキモチも和らぎそうな気がする。

「来海さん、ピザ取りましょうか?」

 美由香が目の前に置かれたシーフードピザを一切れ、自分の皿に取りながら言った。

「うん、ありがとう」

 美由香が来海の皿にピザを一切れ取り分けたとき、店員がパスタの大皿を運んできた。その店員に来海はドリンクを追加で注文する。

「カシスソーダをお願いします」
「あ、私は赤ワインをお願い」

 敦子が言って、柊哉を見る。

「雪谷くんは?」
「俺はまだいいです」

 店員がテーブルを離れ、美由香は来海にささやく。

「木下主任、課長を“雪谷くん”呼ばわりしてますよ」
「そのうち“柊哉くん”って呼び出すかもね」

 来海は美由香にささやき返した。
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