イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海は柊哉を見た。彼は日本酒のグラスを両手で握って、じっと見つめている。

「最低八年は向こうに駐在しろって言われた」
「えっ」

 来海は息をのんだ。せいぜい一年か、長くても二年くらいだろうと勝手に思っていたからだ。

「八年……」

 来海の口から力のない声がこぼれた。八年後なら、来海も柊哉も三十三歳か三十四歳になっている。そんな先のこと、まだ想像できない。

「俺と一緒に貿易管理部と総合販売部からも一人ずつ現地に行く。一から支社を設立するのって、大変だけどすごくやりがいのある仕事だと思う。俺に声をかけてくれるってことは、信頼されているってことだし、すごく嬉しい」
「そ、うだよね。よかった」

 来海は胸が押しつぶされそうに苦しかったが、どうにか笑顔を作った。

「うん、そうだな。部長にも『ワークライフプラン通りになってよかった』って言われた」
(でも、八年も……会えなくなるなんて)

 どうすればいいのか。親しい友達のような心地良い関係を壊したくなくて、これまでずっと告白せずにいた。そのことに後悔と焦りが込み上げてくる。
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