イジワル上司にまるごと愛されてます

　部長が柊哉を片手で示しながら口を開く。

「本日付けで大阪本社の輸入企画部の課長に就任する雪谷柊哉くんだ。知っている人も多いだろう。なにしろ彼は四年前まで、この輸入企画部の社員だったんだからね」

　部長は笑いながら、新課長――柊哉――の背中をバシバシと叩いた。柊哉は苦笑いを浮かべたが、すぐに表情を引き締め、来海を含めて十二人いる社員を見回す。

　部長と柊哉を抜いた十二人のうち、柊哉を知っているのは来海を含めて半分の六人だ。残りの六人は柊哉がイギリスに赴任したあと、入社したり異動してきたりした社員たちである。

「雪谷柊哉です。入社四年目の五月に、イギリス支社立ち上げのためにロンドンに赴任しました。今回、東京支社に転勤された糸田(いとだ)課長の後任として、四年ぶりに日本に帰ってきました。みなさんと協力して、フィーカのいっそうの発展に尽力します。どうぞよろしくお願いします」

　端正な顔に柔らかな笑みを浮かべて、柊哉はお辞儀をした。

　来海の隣で、五年後輩の霧島(きりしま)美由香(みゆか)がほうっとため息をもらした。来海がチラリと見ると、ゆるふわパーマと清楚なワンピースがよく似合うその後輩は、ポッと頬を染めている。

（まあ……柊哉は確かにイケメンだし、美由香ちゃんがうっとりしちゃうのもわかるけど……）