イジワル上司にまるごと愛されてます
 彼はふいっと顔を背ける。

「来海は……ただの友達だ。女とは思えない」

 その言葉に、来海は頭を殴られたようなショックを受けた。

「そんな……じゃあ、これまでのことはいったいなんだったの?」
「酔ってたんだ!」

 柊哉は吐き捨てるように言って立ち上がった。来海の目にじわじわと熱いものが込み上げてきて、柊哉の背中が滲んで見える。

「忘れてくれ。俺も忘れる」

 柊哉は言うやいなや、来海の部屋から出て行った。

 玄関のドアが開いて閉まる音がして、来海はベッドの上で膝を抱えた。期待から失望へと、あまりの展開の速さに、呆然としながら涙を流す。

『来海は……ただの友達だ。女とは思えない』

 彼の言葉がまだ耳の中でこだましていた。

(好きって言葉さえ、言わせてもらえなかった……)
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