イジワル上司にまるごと愛されてます
 そう思いつつも、胸の中にドロドロとした感情が沸き上がってくる。

(私はもう柊哉に振られてるんだから。美由香ちゃんが柊哉に一目惚れとかしても、それは美由香ちゃんの自由だし)

 来海はキュッと唇を引き結んだ。そこへ部長の声が聞こえてくる。

「まあ、糸田課長が東京に行ってしまったのは寂しいが、糸田課長が築いた土台をこれからは雪谷課長が引き継いで――」

 いつものように部長の長い話が始まった。美由香が来海に体を寄せて小声で話しかける。

「入社四年目にイギリスに赴任して、それから四年ロンドンで働いてたってことは……雪谷課長と来海さんは同期ですか?」

 来海も小声で答える。

「うん。雪谷くんは市場調査の結果や流行の読み方がうまくて、彼が企画して輸入した商品はよく売れたの。同期の中でも断トツの成績だったし、二十九歳で課長になってもぜんぜんおかしくない」

 けれど、柊哉はただ優秀なだけではなかった。成績がどれだけよくても決して自慢したり驕ったりしない。同期が仲良くなれるよう、お花見やバーベキュー、飲み会なんかを企画する盛り上げ役でもあった。落ち込んでいても、彼に話を聞いてもらって、笑い飛ばしてもらえれば、取り返しのつかない失敗なんてない、またがんばればいいんだ、と前向きになれた。
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