イジワル上司にまるごと愛されてます
「雪谷課長、ご心配をおかけして申し訳ありませんでしたっ」

 来海はぺこりとお辞儀をして横を向き、歩き出そうとした。直後、柊哉が右手を伸ばして壁に手をつき、来海の行く手を塞ぐ。

「なんですか?」

 来海は眉を寄せながら柊哉を見た。必要以上に近づかないでほしくて、つい身構える。

「今日の朝、教えてほしかったことをまだ教えてもらっていない」
「え?」

 来海は小さく首を傾げ、そういえば自動販売機コーナーに向かう前にそんなことを言われていたことを思い出した。あくまでも他人行儀に問う。

「なんでしょう?」
「……結婚、した?」

 柊哉に訊かれて、来海は目を丸くした。

「は?」
「来海のワークライフプランでは、結婚してから昇進する予定になっていた。だけど……尚人たちに聞いていた通り、してないみたいだな」

 柊哉は来海の左手の薬指をチラリと見た。来海は反射的に左手を隠す。
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