イジワル上司にまるごと愛されてます
 柊哉が怒った声で言い、来海の腕を取ったまま歩き出した。

「離して。大丈夫だって言ってるでしょ!」
「ぜんぜん大丈夫に見えない」

 柊哉はぴしゃりと言った。歓迎会が行われている個室のドアを開けて、顔だけ覗かせる。

「七瀬主任が具合が悪いようなので、送ってきます」
「えっ」

 ドアの外で来海は声を上げたが、個室の中でも「そうなの?」や「大丈夫?」といった声が上がり、来海の声はかき消された。

「疲れているところにアルコールが効いたみたいです。霧島さん、七瀬主任のバッグを取ってください」

 柊哉に頼まれ、美由香が「はい」と返事をする声が聞こえた。

「やめてよ、私、帰らなくても平気なんだから」

 来海は柊哉に文句を言ったが、来海のバッグを持った美由香が個室から出てきて、心配そうな声を上げる。

「わ、来海さん、顔が真っ赤ですよ! 大丈夫ですか? 気をつけて帰ってくださいね」

 そんなふうに言われては、今さら大丈夫だ、とも、帰らない、とも言えない。せめてもの抵抗、とばかりに柊哉に言う。
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