イジワル上司にまるごと愛されてます
「課長の歓迎会なんですから、課長はどうぞ残ってください。一人で帰れますから」
「一人で帰して、なにかあったらどうするんだ。家まで送る」

 柊哉は美由香から来海のバッグを受け取った。

「でも」

 来海がなおも反論しようとしたとき、背後から敦子の声が聞こえてくる。

「部下をそんなに甘やかしちゃダメよ」

 敦子はつかつかと来海に歩み寄った。

「ねえ、七瀬主任。もういい大人なんだから、一人で帰れるわよねぇ?」

 十センチ近く高い敦子に威圧的に見下ろされ、来海は首を縮込める。

「は、はい、もちろん……」

 来海は柊哉にバッグを返してもらおうと手を伸ばしたが、彼はさっと引っ込めた。

「甘やかすのと心配するのとは違います」

 柊哉は言って、来海の腕を掴んだまま歩き出した。その来海の左腕を掴んで、敦子が低い声で言う。

「雪谷課長がそう言ってくださるのは、あなたが彼の部下だからなのよ。あなたは彼のただの部下。だから、勘違いして必要以上に課長を引き止めちゃダメよ」

 念を押すようにじろりと見られ、来海は二、三度うなずく。
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