イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海を含めて、本社に配属された五人の同期の誰もが、昇進するなら絶対に柊哉が一番だと思っていた。

(四年の海外赴任、帰国していきなり課長に就任。ますます私の手の届かない人になったわ……)

 けれど、今から考えれば、元から届くような相手ではなかったのだ。

 柊哉がロンドンに発つ直前の出来事を思い出してしまい、苦い思いが沸き上がってきた。来海が小さくため息をこぼしたのを耳ざとく聞きつけて、美由香が小声で尋ねる。

「やっぱり……同期が上司になるって複雑ですか?」

 美由香は来海のため息のわけを勘違いしたらしい。来海は慌てて否定する。

「ううん、そんなふうには思ってないよ。ただ、もう気さくな同期ではいられないのかなって思っただけ」
「そっか、やっぱりそうなっちゃうんですね。いくら同い年でも、課長ですもんね」

 美由香がつぶやいたとき、部長が来海に声をかける。

「七瀬主任」

 突然名前を呼ばれて、来海はビクッとした。

「は、はい」

 私語を咎められるのかと思ったが、そうではないらしい。部長は楽しそうな声で続ける。
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