イジワル上司にまるごと愛されてます
「いやぁぁ、下ろしてっ」
「おい、変な声を出すな」

 柊哉が言って、来海の背中と膝裏に回していた手にギュッと力を込める。

「だいたい、タクシーで寝る来海が悪い」
「降りるときに起こしてくれたらいいでしょ!」
「何度も声をかけたのに、おまえが起きなかったんだ。まったく、俺がついて来て正解だったな」
「そ、そんなことないよ! きっとタクシーの運転手さんが起こしてくれたもん」
「俺は声をかけるだけじゃなく、何回も揺すったんだぞ。それでも、来海は起きなかったんだ」
「……ホントに?」
「ああ」

 柊哉に呆れたような視線を送られ、来海は体を縮込めた。

「ごめん、ね」
「いいよ、もう。ほら、もうすぐ来海の部屋に着く」

 言われて目をキョロキョロさせると、そこは自分のマンションの共用廊下だった。

 柊哉が歩くたびに逞しい胸板が肩に触れるので、来海の鼓動がどんどん大きくなる。

「着いたぞ」

 柊哉は来海を部屋の前でゆっくりと下ろした。
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