イジワル上司にまるごと愛されてます
 しばらく柊哉と睨み合ったが、埒があかない。

「んー、もう、わかった!」

 来海は諦めて鍵を開けた。来海が開けたドアを、柊哉が片手で支える。

「お疲れ。ゆっくりおやすみ」
「おやすみなさい」

 柊哉の方を見ると、彼は一度小さくうなずいた。その表情が本当に来海を心配しているように見えて、来海は小さな声で「ありがとう」と付け加えた。

「またな」

 柊哉がドアから手を離し、来海はそっとドアを閉めて中から鍵をかけた。息を殺していると、やがて小さな靴音がして、柊哉がゆっくりと歩いて行くのがわかる。

 その靴音が聞こえなくなって、来海はドアにもたれて大きく息を吐き出した。

 柊哉が心配してくれて嬉しい。送ってくれて嬉しい。

(でも、柊哉は“上司として”、“友達として”心配して送ってくれただけなんだから!)

 どれだけ自分にそう言い聞かせても、消そうとしてきた想いが燃え上がろうとする。
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