イジワル上司にまるごと愛されてます
 ドアに押しつけられたときは、本当にキスされるんじゃないかと一瞬思ってしまった。

(そんなこと、あるわけないのに)

 来海は苦い気持ちで笑みをこぼし、枕に顔をうずめた。



 翌日の日曜日、尚人と約束した百貨店の入り口前に着いたのは、三時五十分だった。尚人も雄一朗も……柊哉の姿もまだない。

 来海は夏物のバッグが展示されたショーウィンドウを覗いた。磨き上げられたガラスに自分の姿が映る。今日は湿度が高い予報なので、涼しく見えるよう、袖に刺繍が施された白のVネックカットソーに水色のフレアスカートを合わせている。

 来海はショーウィンドウに背中を向けた。

(柊哉に急用ができて、ドタキャン、とかしてくれないかな……)

 だが、そんな期待を裏切るように、歩道橋の人混みの中に、すらりと背の高い男性の姿が見えた。

「来海」
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