イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海は思わず柊哉を見た。柊哉は来海にチラリと視線を送る。

「来海は俺が肉食系主任になにされようが、『ぜんぜん気にならない』んだろ?」
「や、わ、私じゃなくても、気にする人はいるんじゃない? 柊哉の……その、彼女、とか」
「それこそ、来海が気にしなくてもいいことだろ」
「で、でも、友達なんだから、彼女がいるかどうかぐらい、教えてくれてもいいじゃない」
「来海だって俺に彼氏を紹介しないだろ。だから、おあいこだ」

 来海はぐっと言葉に詰まった。

(最初にくだらない見栄を張ってしまったせいで、こんな言い合いをすることになるなんて)

 来海はこっそりため息をついた。

 少しして柊哉が低い声で言う。

「彼女はいない」
「え?」

 来海は右側を見た。柊哉の横顔が苦い笑みを浮かべる。

「ホント、自分でも驚くけど、就職前に別れて以来、いないんだ」
「意外。でも、デートとかには誘われるんでしょ?」
「まぁね」
「やっぱり」

 ワークライフプランに結婚を入れていなかった彼は、もしかしたら特定の相手と付き合わないつもりなのかもしれない。結婚をしない、という選択だって、アリの世の中だ。

 入社二年目のバレンタインデーに柊哉が後輩社員に告白されていたので、気になってあとでどう返事をしたのか尋ねた。そうしたら、彼は『キミのことは仕事以上に好きになれそうにない』というとんでもない断り方をしたのだそうだ。

(仕事人間、ってことなのかな)

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