イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海が見ていると、柊哉は向かいのビルの看板でも見るように、斜め上方向を見た。彼の視線の先の看板は結婚情報誌の宣伝らしく、ウエディングドレスを着た幸せそうな笑顔の女性が描かれている。

(私はいつウエディングドレスを着られるんだろう……)

 三歳年下の妹の方が早いかもしれないな、と内心ため息をついたとき、柊哉が来海を見た。

「なあ」
「なに?」
「俺、まだ来海に“お帰り”って言ってもらってない」
「えっ、そうだったっけ?」
「そうだよ。温かく迎えてくれるかと思ったんだけどな」

 柊哉が寂しげな笑みを浮かべた。その表情に、来海は自分の気持ちを処理しきれずに、彼にそっけない態度を取ったり、つっかかったりしてしまったことを反省する。

「やっぱり四年でも長かったか」

 柊哉がため息交じりにつぶやいた。来海は改めて言うのは照れくさいな、と思いながら、小さく咳払いをする。

「四年、お疲れさま。お帰り、柊哉」

 来海の言葉を聞いて、彼の表情がふっと緩んだ。

「ただいま」

 彼の低い声が胸にじんわりと染み込んで、なんだか胸がいっぱいになり、来海はそれをごまかすようにスマホの時刻を見た。
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