イジワル上司にまるごと愛されてます
「え、ちょっと!」

 関節のしっかりした男らしい大きな手に力強く引っ張られ、ドギマギしてしまう。彼に手を引かれるまま百貨店の中に入ると、さすがに日曜日の午後だけあって、たくさんの人がエレベーターを待っていた。その列の最後尾に着いて柊哉が足を止め、来海は彼に言う。

「ねえ、これ……なんで?」

 来海が掴まれた右手を視線で示すと、柊哉はニッと笑った。

「来海が逃げないように」

 気持ち的には逃げ出したいが、とんでもない柄のスタイを選ばれては困る。その一心で来海は言葉を返す。

「逃げたりしないよ」
「どうかな」
「ホントだってば!」

 そんなことを言い合っているうちにエレベーターのドアが開き、来海は後ろの人たちに押されるようにしながらエレベーターに乗り込んだ。柊哉は来海の手を握ったままだ。

「恐れ入ります、もう一歩ずつ中程へお詰めください」

 エレベーターガールの声がして、柊哉は来海を彼の方に引き寄せた。来海の目の前に柊哉の胸がある。さらに人が乗り込んできて、柊哉は来海を包み込むように逆の手を来海の背中に回した。
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