イジワル上司にまるごと愛されてます
「大丈夫か?」

 来海は小さくうなずいたものの、心臓はバクバクと打っていて鼓動は頭にまで響いている。大丈夫とは程遠い状態だ。

 来海の頬に柊哉のシャツが触れ、布越しに彼の体温が伝わってくる。まるで柊哉に抱きしめられているみたいだ。

(早く八階に着いて~)

 来海が祈るなか、エレベーターは五階で停止し、開いたドアから女性が二人降りた。それでも混み具合はほとんど変わらず、背中に回された柊哉の手は来海を離してくれない。柊哉に鼓動の激しさが伝わってしまうんじゃないかと心配になる。

 ようやく八階のキッズ・ベビー用品売り場に到着し、人混みから解放された――かと思いきや、八階フロアもすごい人だった。ベビーカーを押す夫婦、サンプルのおもちゃで遊ぶ小さな子ども、お腹の大きな女性と支える男性、孫の買い物に来たと思しき老夫婦など、文字通り老若男女でいっぱいだ。

(こんなふうに手をつないでたら、私たちも夫婦やカップルに見えるのかな……)

 来海はつないだ手から柊哉の横顔へと視線を動かした。
< 67 / 175 >

この作品をシェア

pagetop