イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海は足を止めて振り返った。柊哉は課長席の椅子に置いていた大きな紙袋を取り上げて、ゆっくりと近づいてくる。目の前で足を止めた柊哉に二十センチ以上上から視線を注がれ、来海は背筋をピンと伸ばして彼を見返した。

「これ、お土産の紅茶とショートブレッド。あとでみんなに配るのを手伝ってほしい」
「わかりました。それまでは食器棚に置いておきましょう」

 来海は柊哉から紙袋を受け取り、ティーバッグやインスタントコーヒーのストック、差し入れのお菓子が置かれている棚に入れた。

「それから、教えてほしいことがあるんだけど」
「なんでしょう」

 来海は首を傾げて柊哉の言葉の続きを待った。だが、彼は頭を小さく傾けて廊下を示す。来海は不思議に思いながら、歩き出した柊哉に続いた。輸入企画部を出て廊下を歩き、自動販売機コーナーに入って、柊哉が足を止める。振り返って来海をじぃっと見るので、その眼差しに心を読まれそうだ。来海はとっさに口を開く。

「あ、もしかして自販機の使い方をお知りになりたいんですか? これ、二年前から導入されたんですけど、社員証を読み取り機にかざしたら、ドリンクが買えるんです。で、代金は給料日に自動的に天引きされるというシステムです。小銭いらずで便利ですよ~」

 来海はそう言って、自分の社員証を読み取り機にかざした。ピッと音がして自動販売機のドリンクのボタンがすべて青く光る。来海はアイスティーのボタンを押した。

「課長、なにかおごりますよ。帰国と昇進のお祝いで」
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