イジワル上司にまるごと愛されてます
「なに?」

 柊哉が怪訝そうな表情になり、来海は「なんでもなーい」とごまかした。

 二階でエレベーターを降り、展望台のチケットを買って専用エレベーターに乗った。同じように展望台に向かうカップルや家族連れと一緒に、高速エレベーターで六十階へと運ばれる。

 降りたフロアは地上三〇〇メートルの高さだ。東西南北の壁が足元から天井まですべてガラス張りで明るく、空が近くなったように感じる。

 来海は前のカップルに続いて、天上回廊と呼ばれる通路に向かった。ガラス越しに下を見ると、普段見上げている建物がすべて見下ろせ、車は米粒よりも小さく見える。人の姿など小さすぎてわからないくらいだ。

「うわぁ、すごい……」

 来海はガラスに額をつけた。天気がよければ明石海峡大橋や淡路島まで見渡せるというが、今この時間、海の方は傾いた陽の光を受けて淡いオレンジ色に煙っていて、よく見えない。

「ねえ、柊哉、淡路島見える?」

 来海は柊哉を振り返ろうとしたが、いきなり後ろから彼にギュッと抱きしめられた。
< 73 / 175 >

この作品をシェア

pagetop