イジワル上司にまるごと愛されてます
「えっ、なに?」

 驚く来海の肩に柊哉が顔をうずめ、耳元で彼のくぐもった声がする。

「俺、高いところ……」
「ええっ、苦手なの!?」

 来海を抱きしめる柊哉の腕に力がこもった。彼は無言だ。

「そうだったんだ。知らなかった。じゃ、もう降りよう」

 来海は柊哉の腕を軽く叩いたが、彼は来海を抱きしめる腕を緩めない。

「もう……」

 柊哉の腕は筋肉質で逞しくて、彼にすっぽりと抱きしめられている。柊哉の体温を感じて、どうしても鼓動が高くなる。

(柊哉も……きっと怖くてドキドキしてるんだろうな)

 同じ種類のドキドキならいいのに、と来海は切なさを覚えた。

「ねえ、柊哉、大丈夫なの?」
「ああ。でも、もう少しこのままでいて」

 耳元で柊哉がささやくように言った。

「しょうがいなぁ」

 そう言いながら、来海はそっと柊哉のジャケットの腕に触れた。ずっとこのままでいたい、なんて思ってしまう。今この瞬間、彼は来海と一緒にいて、来海を頼りにしているのだ。
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