イジワル上司にまるごと愛されてます
(このまま時間が止まってしまえばいいのに……)

 けれど、そうしている間にも日はゆっくりと沈んでいき、空が徐々に淡い藍色に、そして深い紺色へと染まり始めた。眼下にはビルの明かりや車のライトがキラキラ輝いていて、まるで宝石のようだ。

「ねえ、柊哉、夜景がすごくキレイだよ」

 来海が言うと、柊哉はそっと顔を上げた。来海の顔のすぐ横に柊哉の顔があり、彼の瞳に街の明かりが映って、濡れたように輝いている。

「前に来たときも……こんなふうにしたの?」

 彼の瞳に目を奪われ、来海の声がかすれた。

「前って?」
「前に上ったことがあるって言ってたでしょ? そのときも怖いと思って、こんなふうにしたの……?」

 柊哉の目にいたずらっぽい光が浮かんだ。

「俺は尚人にはこんなことはしないな」
「え、尚人?」

 柊哉が意味ありげな笑みを浮かべる。

「そうだよ。前回は、ロンドンに行く前、尚人と雄一朗と来たんだ」

 デートで来たんじゃなかったんだ、とわかって、来海の体から力が抜けた。柊哉に背中を窓ガラスに押しつけられそうになり、来海は彼の胸を両手で押した。
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