イジワル上司にまるごと愛されてます
 周囲にはカップルもいっぱいいるが、ここまで密着している男女はいない。おまけに来海は柊哉の恋人ではないのだ。

 そう思うと切なくてたまらず、来海はわざとつっけんどんに言う。

「いつまでもくっつかないでよ! もう暗くて下の方はよく見えないし、怖くないでしょっ。ほら、帰ろう」
「なんだよ、もっとゆっくり夜景を楽しんだらいいのに」

 柊哉が不満そうに言って体を離し、来海は両手を腰に当てる。

「あのね~。柊哉が怖いって言うからでしょ。だから、早くここから下りようって言ってあげてるの!」
「俺は一度も『怖い』なんて言ってないぞ」

 同じように柊哉が腰に両手を当てた。

「え? だって、『俺、高いところ……』って」
「ああ、そう言ったよ。でも、それだけ。怖いとも苦手だとも言ってない」

 あっさり言われて、来海の頬に朱が差した。

「なにそれ、ひどい。私、本気で心配したのにっ!」

 心配しただけではない。抱きしめられて、どれだけ心を乱されたことか。

 デートだと思って楽しんじゃえ、という気持ちはもう消えていた。

 来海は下唇をギュッと噛む。
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