イジワル上司にまるごと愛されてます
(もうこれ以上……柊哉に振り回されたくない)

 彼と一緒にいればいるほど、好きだという気持ちを再確認してしまう。それはもうつらいのだ。

 来海は大きく息を吸い込んで吐き出した。

「私、トイレに行ってくる」

 来海の唐突な言葉を聞いて、柊哉は驚いたように瞬きをした。

「え?」
「お手洗いに行くの」
「あ、ああ」

 柊哉は来海の勢いに押されたようにうなずいた。

 トイレはこの階にはないため、一階下に下りるエスカレーターに乗らなければならない。来海はそのエスカレーターに乗る振りをして、人波に紛れながらエレベーターに向かった。そうして展望台から降りる人たちと一緒にエレベーターに乗って、一階へと下りる。

(もう柊哉に……同期で上司で意地悪な柊哉に翻弄されてなんかやらないんだからっ!)

 来海はバッグからスマホを取り出し、『急用ができたので先に帰ります。ごめんなさい』とメッセージを柊哉に送った。そうして頭上はるかな展望台を一瞥してから、帰路につくべく駅を目指した。 
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