イジワル上司にまるごと愛されてます
 来海が振り向いたとき、柊哉が来海の顔の横で自動販売機にバンと右手をついた。来海はビクッと肩を震わせる。

「ずいぶんと他人行儀なんだな」

 柊哉が顔を近づけて、押し殺した声で言った。そんな険しい表情は、どれだけ記憶をたぐっても見たことがなく、来海は思わず身をすくませた。

「だって……もともと私たちは他人じゃないですか」
「だけど、同期で……“友達”だったはずだ。こんな距離の置き方ってあるか?」

 いら立たしげに言われ、鋭い眼差しで見つめられて、来海は視線を落とし、柊哉のスーツのボタンを見つめる。

(そりゃ……私だって同期で一番に主任になったとき、同期のみんなには敬語を使ってほしくないって思った。これまで通り友達として普通に接してもらえて安心したけど……)

 けれども、柊哉を見た瞬間、彼に対する想いがまだくすぶっていることに気づいてしまったのだ。そんな状態で、“友達”として仲良くしていた頃のように振る舞える自信はない。

(“友達でいてほしい”って言ったのは私だけど……。柊哉のせいで、私は今でも……)
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