イジワル上司にまるごと愛されてます
「アジア・アフリカ地域は時間の流れ方が違うわね」
「そうですか?」

 どういう意味だろうか、と来海は首を傾げながら敦子を見た。敦子はクスッと微笑む。

「アジア・アフリカ担当さんはお気楽でいいわね~。こっちは日にちはもちろん、時間さえも厳守な取引先が多いから、ホントに忙しくて神経すり減りそう」

 敦子の口調には皮肉がこもっていた。来海は無視しようかどうか迷ったが、彼女の言葉は来海に対してだけでなく、同じくアジア・アフリカ地域を担当している社員への嫌味でもある。実際、美由香は唇を尖らせていた。

 来海はできるだけ穏やかな口調で言う。

「地域や国によって考え方や文化が違いますから。とくに開発途上国の小さなコミュニティが相手の場合、できるだけ相手の立場に立って、相手の考え方ややり方を尊重しようと思っています。新規取引先の開拓には、そういうスタンスも大切ではないでしょうか」

 去年まで担当してたんですからもちろんおわかりですよね、と言いかけたが、それは嫌味になるだろうと思って堪えた。
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