春は僕らを攫う
教室のドアが開いて入ってきたのは去年僕らの担任をしていた竹田先生と若い男の人だった。
竹田先生は一番前の窓側に座っていた男子生徒に日直の代わりに挨拶をするよう呼びかける。
指名された男子生徒は「きりーつ、礼ー」と少しだるそうに掛け声をした。
クラスの全員が挨拶をして座ったのを確認すると竹田先生は話し始めた。
短髪で黒縁のメガネをかけていていかにも「先生」って感じがする。
「はい、改めましてこの三年二組の担任をさせていただく竹田裕二です。
去年に引き続きよろしくお願いします。」
竹田先生は明るく生徒の相談も真剣に聞いてくれるため生徒からの信頼は厚い。
僕も別に嫌いじゃない。真剣に聞いてくれる先生はなかなか出会ったことがなかったから
去年に引き続き竹田先生はラッキーだと思う。
そうなると気になるのは竹田先生の隣に立っている若い男性だ。
「あ、じゃあ佐久間先生お願いします。」
竹田先生はそう言って教壇からはける。そして佐久間と呼ばれた先生が教壇に立つ。
端正な顔立ちだ。
「みなさん、初めまして。私は佐久間修といいます。えー今年から染井野中学校に異動になり、三年二組の副担任となりました。担当の教科は国語です。みなさんをサポートできるよう努めますのでどうぞよろしくお願いします。」
準備してきた、というかありたきりな言葉だと思う。まあ副担任とかあまり思い入れないか。
「何かみんな佐久間先生に質問とかありますか?」
竹田先生がみんなに呼びかける。
すると、クラスのなかでもムードメーカー的存在の男子が元気よく手を挙げた。
それを竹田先生は指名する。
「佐久間先生は何歳ですかー?彼女いますか?」
若い先生には恒例の質問だ。
その問いかけに佐久間先生は少し笑みを浮かべ、でも慣れているのか冷静に答えた。
「27歳です。彼女は残念ながらいません。」
ニコッと笑った彼の笑顔はまるで営業スマイルだ。でも端正な顔立ちなので様になっている。
竹田先生は他に質問があるかみんなに聞いたが先ほどの質問で満足したのか
誰も手を挙げない様子だ。
「もういいかな?じゃあ配布物渡しまーす。」
そう言って竹田先生は手に持っていた書類を漁り始めた。
「あれ、3部書類が足りないな…。あー、あと今日配布する教科書も忘れてきちゃったか…」
そんなに忘れたんかい、と心の中でツッコミを入れる。
そんな竹田先生を見かねたのか佐久間先生は自分が持ってくると言う。
「申し訳ないけどよろしくお願いします!あ、でも教科書重いし佐久間先生だけだと…」
嫌な予感がする。竹田先生がこっちを見ている。絶対。
「じゃあ、高瀬くん。佐久間先生と一緒に配布物取ってきてくれるかな。」
ほら来た。仕方ない。
「わかりました。」
佐久間先生とともに教室を後にした。