蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「分かったよ。そうする」
かろうじて聞き取れる声で呟いた後、水岡先輩が私に向かって手を差し伸ばしてきた。
「タクシーに拾って一緒に帰ろう」
やっと帰途に就けそうだ。ホッとしながら水岡先輩に「はい」と返事をし、中條さんの隣を離れようとした瞬間、きつく手を掴まれた。
「……あの……中條さん?」
思わず振り返り、なぜか私を引き留めている中條さんの手と彼の無表情な顔を交互に見てしまう。
ポカンとしてしまった私に「呆れた人だ」と呟いてから、再び中條さんは水岡先輩へと厳しい顔を向ける。
「ご心配なく、花澄さんは俺が送って行きますので。あなた様はどうぞこのままひとりでお帰りください」
中條さんから辛辣な言葉を突きつけられ、水岡先輩は目を大きくさせて私へと伸ばしていた手をぐっと握りしめた。
「だからお前は花澄ちゃんのなんなんだよ! 何の権利があって邪魔してくるんだ!」
怒りに震え出した水岡先輩を冷やかに見つめていた中條さんが、ふっと笑みを……人の悪そうな笑みを浮かべた。
「そこまで知りたいなら仕方がありませんね。あなたの言うその権利とやらを教えて差し上げましょう」