蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
中條さんが楽しそうにも聞こえる声音で、水岡先輩にそんなことを言う。
凍りついている水岡先輩を見て、私はやっと自分の置かれた状況をのみこんだ。
「中條さんっ!」
「そんなに照れないでください。花澄さん」
文句を言おうとしたけれど、出来なかった。
優しく言葉を返してくれてはいるけれど、私を見る中條さんの瞳はやけに冷たくて、「少し口を閉じていろと言ったはずですが?」という彼の心の声が、手に取るようにわかってしまったからだ。
私たちはキスしてない。
してないけれど、水岡先輩の方向から見たら、私たちの顔はしっかり重なっていたように見えただろう。
「花澄ちゃん、さっき彼氏はいないって言ったじゃないか」
「あの……これは……えぇと……」
水岡先輩から恨みのこもった眼差しを向けられてしまった。
嘘をついていないのに、嘘つき呼ばわりされたことが切なくて、「この人は彼氏じゃありません!」って叫びたくなるけれど、だからと言ってそんなことをしたらあとが怖い。
気まずさを抱えながらちらりと中條さんを見上げると、彼がふっと小さな笑い声をあげた。
「彼氏はいない。花澄さんそんなことを本当に言ったのですか?」